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2016年5月9日 公開

音楽家 蓮沼 執太さん

バイトの失敗が人生のプラスに働く機会って
訪れるんじゃないかな。

音楽家 蓮沼 執太(はすぬま しゅうた)さん
自身の音楽作品やアンサンブルチーム「蓮沼執太フィル」の活動の他、映画や演劇、ダンスの音楽プロデュースなど、幅広い活動に取り組む蓮沼執太さん。気鋭の音楽家が経験したアルバイトとは。

初めてのバイト代は、
人間観察の資金に!?

音楽を中心にアートや食、雑貨など多彩なジャンルの楽しさが集う冬フェス「OTO TO TABI」。3月19日には通算6回目が開催され、音楽家の蓮沼執太さんも出演。ライブでは「今日はフェスだけど、最近リリースした『メロディーズ』のワンマンツアーがココから始まると思ってるんで、楽しんでってください!」と会場を盛り上げた。
ライブを終えて間もなく、取材に駆け付けてくれた蓮沼さん。札幌名物のスープカレーを片手に、「ごめんなさい。どうしても食べたくて…」とお茶目な一面を見せてくれた。
蓮沼さんが音楽に触れたのは幼稚園のころ。とはいえ、習い事の一つとしてエレクトーンを弾いていた程度で、両親も音楽に造詣が深いわけではなかった。「小学校時代は合唱発表会の“ピアノ弾かされる系男子”でしたね」と冗談交じりに笑うが、当時から一貫して音楽を聴くことは何よりも好きだった。
そんな蓮沼さんが初めてバイトを経験したのは高校時代。1カ月ほどの短期でステーキ店の皿洗いに打ち込んだ。
「僕の通っていた学校は、渋谷や原宿といった若者が集う街に近かったんです。かと言って洋服を買うでもなく、学校が終わったらファストフードを買ったり、飲み物をテイクアウトしたり、街をブラブラしながら人を観察していました(笑)。そんなちょっとした“人間観察資金”を稼ぐためにバイトを始めたんです」
けれど、1日5〜6時間ひたすら皿洗いをして、手にしたバイト代は「あんなに働いてもこれぐらいなの!?」だったとか。お金を稼ぐ大変さも、自分に合った職場選びの難しさも感じたほろ苦い一ページだったようだ。

多彩な音楽に触れた経験が、
枠を決めずに作曲する“蓮沼スタイル”の礎に。

大学に進学した蓮沼さんは、働いている時間も“好きなことの一部”となるようなバイト先を探した。彼にとって興味のアンテナが反応するのは音楽。選んだ職場は当時渋谷で隆盛を極めたレコード店だった。「今でも音楽は演奏するより聴くほうが好き」という蓮沼さんには打ってつけだ。
「アメリカの最新音楽がすぐさま入荷される一方、僕が生まれていない時代のレコードも星の数ほど在庫がありました。ジャンルもジャズからテクノ、ハウス、ロック、サンバと多種多彩でしたから、探究心がうずきましたね。レコード店でいろんな音楽に触れた経験は、枠を制限せずに作曲するという自分のスタイルの礎になっているかも」
その言葉通り、蓮沼さんは大学4年生のころにフィールド・レコーディングという前衛的でジャンルに縛られない音楽制作に取り組んだ。水のせせらぎや風の音、セミの鳴き声といった自然環境の音だけでメロディーを作り上げたのだ。しかも、アメリカのインディーズレーベルからアルバムまで発表した。学生にしてCDをリリースするとは驚きだ。
「あの…若者っぽい発想ですが、CDをリリースしたのは、ただ漠然と就職したくなかったからなんです(笑)。だけど、今まで育ててくれた両親に申し訳ないから、僕が進むべき道を納得してもらえるような作品を形づくりたくて。で、自分に何が出来るか考えたところ、音楽制作という結論に達しました」

バイト先で人と触れ合い、
音楽漬けの自分を開放!

大学卒業後、蓮沼さんは音楽制作に没頭。コンピュータ上でソフトを駆使して毎日曲を作ってはクオリティーを磨き、クオリティーを磨いては納得出来ずに捨て、自分のスタイルを確立しようと一心不乱にパソコンと向き合っていたそうだ。
「あのころは根を詰めるという言葉がピッタリの時期。心身ともに疲れている自分を一時でも開放してくれたのが、コンピュータアートの作品を展示する美術館のバイト。職場の仲間やお客さんとのコミュニケーションは、良い息抜きにもなって救われた気がしました。何せ一人部屋にこもって、黙々と作業に打ち込んでましたから」
最近になってバイト先だった美術館からの依頼で、ミュージシャンの坂本美雨さんと対談する機会をもらったのだとか。「ココで働いていたことがあるんですよ〜。時給は低かったけど…なんてネタも披露しました(笑)」と蓮沼さん。そして、和やかな笑顔から一転、バイト先で出会った人との縁がいまだにつながっているからこそ、仕事が生まれる可能性も広がると真剣な眼差しで語る。
「バイトを始める最初の一歩を踏み出すには勇気がいりますよね。怒られるのが怖いから及び腰になっちゃったり。でも、バイトの失敗って、人生の失敗というほど大げさじゃないですよね。僕はバイト先ってミスする訓練の場でもあると思います。音楽に限って言えば、自分は敢えて予定調和を乱すミスのような不安定なアレンジを持ち込むケースもあるんです。すると、聴く人の耳も“アレ?”と傾きやすくなるというか。失敗を受け入れることで、その経験を生かしたり、むしろ人生のプラスに働いたりする機会っていつか訪れるんじゃないかな」

★蓮沼 執太さんの思い出バイト★

飲食店の皿洗い
手が荒れるくらいひたすら皿洗いと向き合っていました。今考えると、何でこのバイトを選んだんだろう…(笑)。
レコード店
レコードの販売からポップ作り、アメリカとの取引メールまで業務全般を担当。有名なDJも数多く訪れましたね。
美術館
変わった作品が多く、ボタンを押すと動くようなアートも展示していたので、お客様に操作のご案内をしていました。

<プロフィール>
蓮沼 執太

1983年、東京都生まれ。音楽作品のリリースを筆頭に、音楽アンサンブル・蓮沼執太フィル/チームを組織し国内外でコンサートを公演。その他、展示作品の発表、舞台作品などを制作。最新アルバムに『メロディーズ』(2016)、シアターピース『TIME』(神奈川芸術劇場・KAAT)がある。自ら企画・構成をするコンサートシリーズ『ミュージック・トゥデイ』も主催。

<インフォメーション>

●最新リリース情報
「メロディーズ」
DDCB-13031 3,024円(税込)

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