本やアート、好きなものの話題で優しいつながりが生まれる喫茶店【喫茶ファロ】

旅行で北海道に来たのがきっかけで奈良から移住した大浦夫妻。「札幌に来たのが28歳の時なのであっという間ですね」と慎司さん。休日は家庭菜園や、厚真でサーフィンを楽しみ、最初は驚いたという雪もそれはそれで楽しいと北海道を満喫しています。江別で暮らし始めてからも8年。北海道に来たころは江別を知りませんでしたが、国道12号線沿いに放牧されている牛や、畑に転がる牧草ロールなどの江別の日常にある北海道らしい景色に感動しました。江別には高い建物が少ないので空が広く見えるのも気に入っています。

2019年にオープンした喫茶ファロも12月に4年目を迎えます。映画「キングスマン」に登場する高級テーラーの内装をイメージした店内にはレコードの音楽が流れます。お二人はお客さまとの会話が楽しいと言います。昔から江別に住む方にまちの歴史を教えてもらえたり、自分の好きなものや趣味の話をしてくれるお客さまも多く、人から聞く話はネットで調べるのとはまた違った情報であり、その方の感じている世界を知れることが楽しいのだそうです。「私には語れるほどの趣味がないのが、今は自分の良いところだと思っていて、人の好きなものの話を聞くのが楽しすぎるんです」と教えてくれたのは蘭さんです。

蘭さんといえば、手描きのお知らせが素敵です。イラストを見るのを楽しみに訪れるファンもいるほど。EBRIのチョークアート制作にも抜擢され、泉の沼公園の風景を描きました。お店のポップに描き始めたイラストなので作品にすることを考えてはいませんでしたが、札幌の喫茶店で展示会に参加してみたのをきっかけに「自分の表現を見てもらえる場所があったら、もしかしたら10代の私が別の選択肢や可能性に気が付いたかもしれない。若い人のそうした機会になればいいな」と、えべつまちなかアート月間にも賛同しています。えべつまちなかアート月間は、30歳未満の若手作家の作品を江別市内のカフェや施設等に約1ヶ月かけて展示する試みです。店内にアートがある風景はお客さまに好評でしたが、「ずっと店に居る自分達が一番ぜいたくにアートを感じていたと思う」と慎司さん。昨年は、作品を買われた方が自宅に飾った写真を作家さんに送るなど、アートを通じた交流が生まれたこともうれしい出来事でした。

喫茶ファロで取り組む一冊文庫もユニークです。今までに約100冊の本の交換がありました。ある本は「たくさんの人に読んでほしい」というお手紙と自作の栞が添えられていたと、受け取った方がちゃんとまた一冊文庫に置いてくれました。
お客さま同士で直接のやりとりがあるわけではありませんが、本を通じて引き継がれていく思いやりを感じます。出会いとご縁がこれからもファロで生まれていきそうですよね。

文・取材：三ツ井瑞江／写真：岩崎晃和