大学を卒業後、伊藤さんは本格的にバンドに打ち込むようになり、CDリリースにまでこぎつけたものの、ささいな行き違いからバンドは解散。伊藤さんは音楽の道を離れ、得意の語学力を生かして米軍関係の施設に勤めて、外国人に囲まれた生活を送るように。「世界42カ国の人が働いている施設だったので、ある意味、世界の縮図を見たような貴重な体験が出来ましたね。ひと夏働いたころに、昇進というのか『ミスター・イトウ、もっと責任のある部署で、正社員として一緒に働きましょう』っていう誘いを受けたんだけれど、この時に改めて『やっぱり自分は音楽をやりたいんだ』って気づいて。施設での仕事は辞めたんです。どうせ一度しかない人生なんだからほっぽらかしていた夢にもう一度トライしてみようと思い直して、結成したのがKEMURIだったんだ」
KEMURIの結成時、伊藤さんは28歳。一般的に考えれば決して早いスタートとは言えないだろう。だが、伊藤さんはこう話す。「アルバイトを通じて、いろんな人に出会って、いろんな生き方を見て。体さえ動けば仕事はあるし、人生何とかなるもんだって思えたんだよね。『やりたい』って願う強い気持ちが切り拓いていく未来図ってきっとあると思うし、大切なことを決めなきゃならないターニングポイントはこれからもまた訪れるんだろうな。その時に最善の決断をするために、いろいろ見て感じて勉強しておくことが大切だと思う。『never too late』。遅すぎることはない。好きな言葉です」明るく、まっすぐに前を見つめるイキイキとした笑顔が印象的だった。