すべての命が大切にされる社会を目指し二人三脚で取り組む【モービルベットオフィス】

Mobile VET Office（モービルベットオフィス）は、北海道で唯一の野良猫や地域猫、保護猫のための不妊手術専門の動物病院です。江別を拠点に移動式診療手術室を用いて、道内全域で出張手術を行っています。代表の大門正明（だいもんまさあき）さんと獣医師のみゆきさん夫妻にお話しを伺いました。

野良猫問題は、破棄された猫たちから子猫が生まれ過剰繁殖することでトラブルにつながります。自治体やボランティア団体から依頼された飼い主のいない猫の不妊手術後、元の場所に戻します。みゆき先生は、野良猫が繰り返し捕獲され手術を何度も受けるリスクをなくすため、片耳の先を桜の花びらの形にカットし、手術済みの証しとしています。「野良猫問題を少しでも解決できるよう、こんな方法もあるということを知ってもらいたい」と話します。猫だけに限らず多頭飼育崩壊などのペットに関する社会問題にも向き合い、動物の適正飼育の普及にも力を入れており「すべての命が大切にされる社会」がお二人の目標です。

正明さんが仕事で仙台に出向いた時に暮らしたシェアハウスで二人は出会います。仕事を終え正明さんが江別に戻るというタイミングで結婚しました。仕事を辞めて江別に来たみゆきさんに正明さんが「好きなことをやってみればいい」「始めてみないと需要があるかもわからない」と、それまでボランティアで活動していた野良猫への不妊手術を仕事にするよう勧め、2017年6月に開院しました。「みゆき先生は人前で話したり表に立つのが得意ではないので、そこはフォローするけど聞き上手で相手に安心感を与えるし器が大きい」と、医療に集中できるよう病院経営は正明さんが行います。病院の他にも塾を運営し学習支援を行なっている正明さんは「江別を子ども達の学びの場にしたい」と話します。そんな正明さんを「自分に無いものを持っているので頼もしい。毎日尊敬している」と言うみゆきさん。

正明さんは道内各地から手術を求め江別に来る人に待ち時間に市内の見所を楽しんでもらおうと観光協会が発行する冊子を渡していたこともあり、観光協会のワークショップに参加してみます。そこでのSOCブルーイングとの出会いが「ボクらと、ネコ」を生み出しました。2月22日の「猫の日」に発売された猫のイラストをラベルにしたビールの売上げの一部は手術費用として寄付されました。ビールを通じて活動を知ってもらい、ビールを飲むことで動物愛護活動に気軽に参加できる取り組みはクラフトビール業界でも初となり限定1800本のビールは即完売したそうです。

処分される悲しい命が増えないように「行政とのやりとりを増やしていきたい」「野良猫手術の技術を伝え人材の育成をしていきたい」というお二人。みゆきさんは昨年設立された獣医師団体の理事も務めます。まちや市民、大学との連携も江別なら広がっていきそうと話してくれました。

文・取材：三ツ井瑞江／写真：岩崎晃和