生きること、食べること、命の尊さと優しさのメッセージを発信する【トンデンファーム／宮崎さん】

「トンデンファームはここからスタートしました」と古めかしい木製の松山畜産の看板を持って登場したのは株式会社トンデンファーム代表取締役社長の宮崎敏弘さん。創業者である松山増男さんが江別で養豚業を始め、昭和50年松山畜産有限会社を設立し、現在のトンデンファームがあります。赤井川村に工房とレストランを開設したり、白老町に牧場がありましたが、今は直売所の他にも食事処松の実、焼肉笑山門、旬彩鮨すし笑、乳製品・菓子製造部門の北の国ファーム、アースドリーム角山農場など工場・牧場・レストランのすべての機能を江別に集約しています。

札幌出身の宮崎さんは、子どものころに家族でよく食事に行った某和食レストランで働きたいと就職活動をします。札幌を中心に展開するレストランなのに試験会場は江別？と思いながら面接を受け「グリーン麺やだんごが大好きだった」と伝えると「うちにあるのはハムやソーセージだ」と言われ、まさかのトンデン違いに気が付きます。しかし、試食に出されたソーセージが今まで食べたどのソーセージよりもおいしいと感動し「ここで働きたい」と就職しました。会計の専門学校を卒業した宮崎さんは経理の仕事をするつもりでしたが、営業に配属されたり工場で研修を受けるなど、社内のあらゆる部署を経験したのだそう。慣れ親しんだ部署から畑違いの業務となっても新しい経験ができると思って働いてきたことによって、すべてが学びになったと言います。ベテランのスタッフにも新人にも、担当外の仕事を経験することは自分の仕事にプラスになると、従業員同士が部署の垣根を超えて助け合えるように声掛けをしています。

宮崎さんは、これらの世代に良い環境を残すことを使命とすると共に、若い世代にもっと伝えていく必要性を感じ、SNSでの発信を業務にする担当者を2人配属しました。手作りしている様子など秘密にしていた部分も公開し、おいしさの魅力を発信していくと言います。炭焼きの伝統にこだわったハム・ソーセージは、できるだけ機械に頼らず一本一本丹念に時間と手間をかけて造られていて、骨付きソーセージの製造は特許を取得しています。熟練の職人が守り続けてきた工程は見たところで真似できるものではない唯一無二の味なのです。

今年は6名の新入社員が入社しました。彼らの「子どものころに食べたソーセージがおいしかった」「動物たちと働きたい」という志望動機を聞いた時には涙が出るほどうれしかったそう。新しいことを取り入れながらも揺るぎのない信念を持ちおいしい、楽しい、うれしいの感動体験ができるトンデンファームであり続けたから、ここで働きたいと思う若者が現れて来たのでしょう。「心と胃袋をがっちりつかんで江別のこの場所をみんなの古里にしたい」と話してくれました。

文・取材：三ツ井瑞江／写真：岩崎晃和